選択支持バイアス(choice-supportive bias)とは、何かを選んだ後に、選んだ選択肢の良い点を多く、選ばなかった選択肢の良い点を少なく記憶・評価しやすい傾向です。選択支持的記憶(choice-supportive memory)とも呼ばれ、購入後の合理化(post-purchase rationalization)と重なる部分があります。
これは「選んだ人は必ず自分を正当化する」という診断ではありません。選択肢の情報が多い場面や、後で振り返って判断を学び直す場面で、記憶や評価にどのような偏りが入りうるかを見るための一つのレンズです。
1. 日常で見られる選択支持バイアス
選択後に感じ方や記憶が変わることは、買い物や仕事、人間関係などで起こりえます。ただし、あとから評価が変わったことだけで、このバイアスがあったと決めつけることはできません。
購入後の商品レビュー
似た2機種で迷って一方のスマートフォンを買った後、選んだ機種の便利な点が目に入りやすく、もう一方の長所は思い出しにくくなることがあります。購入直後の評価だけでなく、比較時に何を重視していたかを残しておくと、後で見直しやすくなります。
採用活動や人事評価
候補者を採用した後、その人の良い情報を中心に振り返り、不採用にした候補者の長所を軽く扱うことがあります。採用の成否を検討するときは、選考時の基準、評価記録、入社後の実績を分けて確認することが重要です。
過去の交際相手の評価
新しい関係を始めた後、現在の相手の良い面や以前の相手との違いに注目しやすくなることがあります。関係の評価には出来事や感情の変化も関わるため、選択支持バイアスだけで説明するのは適切ではありません。
2. 選択後の記憶を調べた研究
この傾向は、選択肢に含まれていた特徴を後からどちらの選択肢のものだったか答えてもらう、記憶研究で調べられてきました。
実験の設定:選択肢の特徴を記憶する課題
Mather、Shafir、Johnson(2000)は、参加者に複数の特徴をもつ選択肢から一つを選んでもらい、後で各特徴がどちらの選択肢に属していたかをたずねました。研究の目的は、選択後の記憶の帰属に偏りが生じるかを確かめることでした。
後日の記憶テスト
参加者は、選んだ選択肢により多くの肯定的な特徴を帰属させる方向の誤りを示しました。これは、選択後の記憶が常に正確な記録ではなく、どの選択肢を選んだと信じているかとも関わりうることを示す結果です。Henkel と Mather(2007)も、実際の選択ではなく「自分が選んだ」と信じた選択肢に沿って記憶の帰属が偏ることを報告しています。
一方で、研究で扱われる歪みには、選ばなかった選択肢の特徴を選んだ方のものと取り違える「誤帰属」、事実の変形、提示されていない特徴を思い出す「偽記憶」、選択に合わない情報を忘れやすい「選択的忘却」などの違いがあります。すべてが同じ強さで、すべての状況に起こるとまではいえません。
3. どのように起こるのか
選択支持的な記憶には、選択時の注意の向け方、後から情報を思い出すときの手がかり、選択への確信や感情など、複数の要因が関わると考えられています。単一の仕組みですべてを説明できるわけではありません。
認知的不協和との関係
認知的不協和の研究では、選択した行動と評価のずれを小さくする方向に、選択後の好みが変化することが検討されてきました。選択支持バイアスは、こうした選択後の評価変化と関係することがありますが、記憶の誤帰属そのものと同義ではありません。
選択後の情報の扱い
大切な判断では、選ぶ前に比較表や判断基準を残し、選んだ後には反対の証拠も確認すると役立ちます。結果が出た後の評価では、「当時の情報で妥当だったか」と「結果はどうだったか」を分けて考えると、後知恵や自己正当化だけに左右されにくくなります。
4. 併せて知っておきたい関連理論
似た現象と区別しておくと、何が起きているかを整理しやすくなります。
確証バイアス
自分の考えに合う情報を集めたり重く見たりしやすい傾向です。選択支持バイアスは、特に「選んだ後」の記憶や評価に焦点を当てます。
サンクコスト効果
すでに支払った時間や費用を理由に、続ける判断をしやすくなる傾向です。過去の投資をどう扱うかの問題であり、選択後の記憶の偏りとは区別されます。
認知的不協和
考え・態度・行動の間の食い違いによる不快さと、その調整を扱う理論です。選択後に好みが変化する説明の一つとして関連します。
後悔回避
将来の後悔を避けようとして、選択を控えたり特定の選択肢を選びやすくなったりする傾向です。選択前の意思決定に主な焦点があります。
5. 学術的根拠・出典
- Mather, M., Shafir, E., & Johnson, M. K. (2000). Misremembrance of options past: Source monitoring and choice. Psychological Science, 11(2), 132–138.
- Mather, M., & Johnson, M. K. (2000). Choice-supportive source monitoring: Do our decisions seem better to us as we age? Psychology and Aging, 15(4), 596–606.
- Henkel, L. A., & Mather, M. (2007). Memory attributions for choices: How beliefs shape our memories. Journal of Memory and Language, 57(2), 163–176.
- Lind, M., Visentini, M., Mäntylä, T., & Del Missier, F. (2017). Choice-supportive misremembering: A new taxonomy and review. Frontiers in Psychology, 8, 2062.
- Enisman, M., Shpitzer, H., & Kleiman, T. (2021). Choice changes preferences, not merely reflects them: A meta-analysis of the artifact-free free-choice paradigm. Journal of Personality and Social Psychology, 120(1), 16–29.