内集団バイアス(in-group bias/内集団ひいき)とは、自分が属すると感じる集団の人を、外の集団の人より好意的に評価したり、資源を有利に配分したりしやすい傾向です。職場の部署、学校、地域、スポーツチームなど、さまざまな集団で見られます。
これは「身内を大切にする人は偏見を持つ」という診断ではありません。集団への帰属は協力や安心感にもつながります。問題になるのは、集団名だけを理由に、個人の行動や情報を十分に見ず評価する場合です。
1. 日常で見られる内集団バイアス
自分たちと相手を分ける枠組みが目立つと、同じ集団の人を信頼しやすくなることがあります。
職場の部門間対立
営業、開発、管理などの部門で、相手の事情より「こちらの部門は分かっている」「あちらは分かっていない」と考えやすくなることがあります。業務上の利害や情報不足も関わるため、すべてを内集団バイアスだけで説明することはできません。
スポーツや学校への帰属
応援するチームや母校が同じ人に親近感を持つことがあります。一方で、相手チームのファンを一様に捉えたり、個別の行動を見ずに評価したりすると、内集団・外集団の区分が判断を狭めることがあります。
政治や社会的な意見の違い
自分と近い意見の人の発言は好意的に受け止め、異なる意見の人の発言は厳しく読むことがあります。社会的な分断には制度、経済、メディア環境など多くの要因があり、内集団バイアスはその一部を捉える概念です。
2. 最小条件集団の研究
内集団バイアスの代表的な研究として、Henri Tajfelらによる最小条件集団(minimal group)研究があります。ここでは、既存の対立や利害がない状況で、単純な分類だけが人の配分判断にどう関わるかが調べられました。
研究の設計
参加者は、点の数を見積もる課題や絵画の好みなどを手がかりに、二つのグループへ分類されました。参加者どうしは面識がなく、直接やり取りもしません。そのうえで、匿名の他者に報酬を配分する選択を求められました。
研究が示したこと
研究では、参加者が自分と同じ集団の相手に有利な配分を選ぶ傾向が観察されました。これは、分類だけでも内集団へのひいきが生じうることを示します。ただし、実験上の単純な集団と、現実の民族・組織・政治集団は同じではありません。現実の集団間関係には、歴史、権力、資源、制度が加わります。
3. 内集団バイアスを考えるための視点
内集団バイアスには、社会的アイデンティティ、相手集団の捉え方、集団間の地位や関係などが関わります。単一の原因に還元することはできません。
社会的アイデンティティ理論
社会的アイデンティティ理論は、人が自分を個人としてだけでなく、所属集団の一員としても捉える点に注目します。集団が自分にとって重要なほど、集団どうしの比較が評価や行動に関わる可能性があります。
外集団の同質性
自分の集団の多様さは見えやすい一方で、外の集団を「みな同じ」と捉えやすいことがあります。これを外集団同質性バイアスと呼びます。ただし、どの集団を詳しく知っているか、どの状況で比較するかによって現れ方は変わります。
生物学的説明に還元しない
内集団へのひいきを、進化や本能だけで説明することは適切ではありません。集団の境界は文化や制度、状況によって変わります。現実の不平等や排除を理解するには、心理的傾向に加えて社会的な条件を見る必要があります。
4. 併せて知っておきたい関連理論
関連する概念を区別すると、集団のなかで起きていることをより具体的に捉えられます。
同調圧力
周囲に合わせるよう促す社会的な圧力です。内集団への帰属意識が強い場面では重なることがありますが、内集団バイアスは内外の集団を比べる評価に注目します。
投影バイアス(社会的投影)
自分の考えや感情が、他者にも当てはまると見積もりやすい傾向です。同じ集団の人について「自分たちなら同じ意見のはず」と考える場面では、内集団バイアスと併せて検討できます。
社会的比較理論
自分の意見や能力を他者との比較で評価する理論です。社会的アイデンティティ理論では、個人だけでなく集団どうしの比較にも目を向けます。
親族選択(血縁淘汰説)
親族への援助を説明する進化生物学の理論です。血縁関係と、職場や趣味などで形成される内集団は別であり、内集団バイアスを親族選択だけから説明することはできません。
5. 学術的根拠・出典
- Tajfel, H., Billig, M. G., Bundy, R. P., & Flament, C. (1971). Social categorization and intergroup behaviour. European Journal of Social Psychology, 1(2), 149–178.
- Tajfel, H., & Turner, J. C. (1979). An integrative theory of intergroup conflict. In W. G. Austin & S. Worchel (Eds.), The social psychology of intergroup relations (pp. 33–47). Springer reference entry.
- Mullen, B., Brown, R., & Smith, C. (1992). Ingroup bias as a function of salience, relevance, and status: An integration. European Journal of Social Psychology, 22(2), 103–122.