囚人のジレンマ(Prisoner’s Dilemma)とは、二者が協力か非協力かを選ぶゲーム理論のモデルです。それぞれにとって非協力が有利でも、二人とも協力した場合より結果が悪くなるよう利得が設定されています。
実際の人間関係や市場がそのまま囚人のジレンマになるわけではありません。繰り返しの関係、情報共有、ルール、制裁などがあれば、協力は十分に起こり得ます。このモデルは、協力が難しくなる条件を見るためのレンズです。
1. 日常で見られる囚人のジレンマ
企業の価格競争
互いに価格を維持したほうが利益が残るのに、相手に顧客を奪われる不安から値下げを選ぶ状況は、条件によって囚人のジレンマとして表せます。
スポーツにおけるルール違反
全員がルールを守るほうが公正な競技になりますが、監視や制裁が弱い場合には、個人に違反の誘因が生まれることがあります。
広告費の競争
競合への対抗として支出を増やした結果、双方の利益が減る場合があります。ただし実際の広告市場には多数の企業や差別化があり、単純な二者ゲームとは限りません。
2. 黙秘か自白か:利得表で考える
二人の選択
典型例では、二人がともに協力すれば各2年、片方だけが非協力なら非協力者は0年・協力者は10年、双方が非協力なら各5年とします。数字は説明のための設定で、版によって異なります。
支配戦略と均衡
相手がどちらを選んでも、自分だけを見ると非協力のほうが有利です。そこで双方が非協力を選ぶ状態がナッシュ均衡になります。しかし二人にとっては、相互協力のほうがよい結果です。
3. 協力が難しくなる条件と、成り立つ条件
ナッシュ均衡
ナッシュ均衡は、他方の選択を所与にすると、一方だけが選択を変えても得にならない状態です。均衡が社会全体にとって望ましいとは限りません。
パレート改善の可能性
相互協力は、双方をよりよくする結果になり得ます。約束を守れる仕組み、情報の透明性、ルール違反への対応は、協力を続けやすくする条件です。
反復関係と信頼
一回限りでなく、今後も関係が続くと分かっているときは、将来の反応を考えて協力が選ばれやすくなります。ただし、反復ゲームでも協力が必ず成立するわけではなく、誤解や情報不足で崩れることもあります。
4. 併せて知っておきたい関連理論
公共財ゲーム
多人数で共有資源への拠出を考えるモデルです。二者の囚人のジレンマとは参加人数や利得構造が異なります。
信頼ゲーム
一方が資源を預け、もう一方が返すかを選ぶ実験ゲームです。信頼と返報性を測る点で囚人のジレンマと区別されます。
フリーライダー問題
費用を負担せず利益だけを得ようとする問題です。公共財ゲームで特に中心となる概念です。
互恵的利他主義
将来の返報を見込んで協力する考え方です。反復的な囚人のジレンマで協力を考える際の関連概念です。
5. 学術的根拠・出典
- Flood, M. M. (1952). Some experimental games. RAND Research Memorandum RM-789.
- Rapoport, A., & Chammah, A. M. (1965). Prisoner’s Dilemma: A Study in Conflict and Cooperation. University of Michigan Press.
- Axelrod, R. (1984). The Evolution of Cooperation. Basic Books.
- Nowak, M. A. (2006). Five rules for the evolution of cooperation. Science, 314(5805), 1560–1563.
- Rand, D. G., Arbesman, S., & Christakis, N. A. (2011). Dynamic social networks promote cooperation in experiments with humans. PNAS, 108(48), 19193–19198.