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なぜ自分では急いでいるのに、「仕事が遅い」と言われるのか?

仕事を急いで進めているつもりなのに、上司から「仕事が遅い」と言われることがあります。締切には間に合わせていても、「もっと早くできるはず」と言われると、結局どうすれば仕事を早くできるのか分からなくなるものです。確認を減らせばミスが増え、考える時間を削れば手戻りが起き、ただ急ぐだけではかえって時間がかかることもあります。仕事を早くするには、まず自分のどこが本当に遅いのかを見分ける必要があります。 この記事では、自分では急いでいるのに「仕事が遅い」と評価される理由を行動科学から整理します。さらに、よくある改善策がうまく効かない理由と、どこを変えれば実際に仕事を早くできるのかまで考えていきます。

目次

1. 締切には間に合わせているのに、「これにそんな時間かかる?」と言われます

匿名希望

自分では手を止めているつもりはないんです。でも上司からは、仕事が遅いと言われます。

定例会議で使う資料の数字を更新する仕事を任されると、頼まれたあとすぐに取りかかり、元データと数字が合っているか確認しながら進めています。指定された締切より前には出しているのですが、提出すると「これ、まだやってたの?」「もう少し早くできない?」と言われることがあります。自分では普通に進めていたので、どこで時間を使いすぎたのかよく分かりません。
それからはなるべく急ぐようにして、前ほど細かく確認せずに出すことも増えました。ただ、数字の抜けや表記の違いを直すために戻されると、その修正でまた時間がかかります。「どれくらいで終わらせればいいですか」と聞いても、「できるだけ早く」「このくらいの仕事ならそんなにかからないと思う」と言われるだけで、何時までなら問題ないのかは分かりません。急いでいるのに遅いと言われると、自分の仕事のペースの何がおかしいのか分からなくなります。

2. 自分なりに急いでも、職場の「速い」から外れてしまう3つのパターン

ミスを出さないよう確認する人、ある程度完成させてから見せる人、手戻りを避けるため前提を整理してから進める人では、時間を使う場所が違います。それでも職場側が期待している確認量、途中提出の時点、完成度が共有されていなければ、三タイプとも自分なりの基準で仕事を進め、提出した後になって初めて「遅い」と評価されることになります。

このタイプのもやもや

自分の間違いで後から誰かに直してもらうのが嫌なので、提出する前に数字や宛先を一通り確認しています。前に一度、確認せず出して先輩に修正してもらったことがあるので、そこは気をつけるようになりました。でも最近は上司から『そこまで確認してたら時間かかるよ』『もっと早く出して』と言われます。どこまで確認して、どこからはそのまま出していいのかが分かりません。

ここで起きている構造:察してちゃん問題

三タイプでは時間を使う場所が違います。確認に時間を使う人も、完成度を上げてから見せる人も、前提を整理してから進める人もいます。ところが職場側に「この仕事ならこのくらいで終わるはず」「この段階で一度見せるはず」「ここまで確認すれば十分なはず」という期待があっても、それが本人と共有されていなければ、本人は自分なりの進め方で仕事をし、期待から外れた後になって初めて「遅い」と言われます。

さらに「もっと早く」とだけ言われても、確認を減らすべきなのか、途中で見せるべきなのか、完成度を下げてよいのか、考える時間を短くすべきなのかは分かりません。上司側では当然に見えている仕事の進め方でも、本人にとっては言われなければ分からないことがあります。「このくらいは言わなくても分かるはず」という期待が共有されないまま向けられ、その期待から外れた結果だけを見て評価される。 ここでは、この状態を「察してちゃん問題」と呼びます。

補足:評価する人の「共通の物差し」を揃えると、評価の正確さは改善します

Roch, Woehr, Mishra & Kieszczynska(2012) は、人の仕事ぶりを評価する際に、評価者へ共通の評価基準や具体的な判断の枠組みを持たせる「Frame-of-Reference Training」に関する研究をまとめました。その結果、共通の評価枠組みを学ぶ訓練は、パフォーマンス評価の正確さを改善する有効な方法だったと報告されています。

この研究は、「仕事が遅いと言われる人」や作業速度だけを調べたものではなく、上司と部下の間で所要時間を共有する効果を直接検証したものでもありません。ただ、仕事ぶりの評価は、対象者の行動を見るだけで自動的に一つの答えが出るものではなく、評価する側がどの基準でその行動を読むかによって変わりうることを考える材料になります。「遅い」という評価についても、何分・何時間なら十分なのか、どこまで完成していればよいのかという物差しが曖昧なら、同じ仕事でも評価がずれる余地があります。

3. 行動科学で解説:なぜ急いで仕事をしているのに、「遅い人」と評価されてしまうのか?

「仕事が遅い」という言葉は、作業時間をそのまま読み上げたものではありません。同じ三時間でも、半日かかると思っていた仕事なら「早い」ですが、一時間で終わると思っていた仕事なら「遅い」になります。つまり、実際にかかった時間と、評価する側が想定していた時間を比較した結果として「遅い」という評価が生まれます。 ところが、「どのくらいで、どの状態まで進めるはずか」という期待が本人に共有されていなければ、本人は別の基準で仕事を進めることになります。

そこで生じた差が何度か続くと、「この仕事に何時間かかった」という個別の出来事だけでなく、「この人は仕事が遅い」という人物像へまとまりやすくなります。その評価を意識した本人が、とにかく急ごうとして確認を飛ばしたり、逆に失敗しないよう慎重になったりすれば、修正や迷いによって仕事全体が長引くこともあります。最初は共有されていない期待とのズレだったものが、本人の仕事の仕方まで変え、その結果によって「やっぱり遅い」という評価が強くなることがあります。

3つの理論で詳しく見る 

コア理論:評価バイアス ― 評価者側の物差しが、本人の仕事ぶりを判断する基準になる|期待ズレ

評価バイアスとは、人を評価するときに、実際の成果だけではなく、評価者が持っている基準や注目している情報などによって判断が偏ることです。ただし、仕事の速さを何らかの基準と比べて評価すること自体が、ただちにバイアスなのではありません。速いか遅いかを判断する以上、何らかの比較基準は必要です。

問題になるのは、「この仕事ならこのくらいで終わるはず」という評価者側の経験や想定が、本人と共有されたり実際の工程から検証されたりしないまま、当然の評価基準として使われる場合です。 本人は「締切までに正確なものを出せば十分」と考えていても、上司は「まず一時間でたたき台を出す」と期待しているかもしれません。仕事を始める時点では共有されていなかった期待が、終わった後になって評価基準として現れる。これが、この場面での期待ズレです。

サブ理論:アンカリング効果 ― 「このくらいで終わるはず」という最初の基準から、時間の評価が離れにくくなる|時間錯覚

アンカリング効果とは、最初に置かれた数字や基準が、その後の判断に強く影響する現象です。仕事の所要時間でも、評価する側が自分の経験、以前その仕事をしていた人、普段見ている処理時間などから「だいたいこのくらい」という基準を持てば、その時間が判断の出発点になることがあります。

しかし、同じ名前の仕事でも、担当者の経験量、確認する範囲、使える資料、途中で発生する質問などによって必要な時間は変わります。それでも最初の「一時間くらい」という基準が強ければ、二時間かかった理由を一つずつ見る前に「時間がかかりすぎ」と感じやすくなります。実際の工程から必要時間を組み立てるのではなく、先にある想定時間から現実を見ることで、どれだけ時間が必要な仕事なのかという見積もりそのものがずれます。 ここでは、それが時間錯覚として働きます。

補助理論:ゴーレム効果 ― 「遅い人」という低い期待が、その後の仕事まで遅くしうる|フィードバック暴走

ゴーレム効果とは、周囲から低い期待を向けられることで、本人のパフォーマンスも実際に低下していく現象です。職場では一度「この人は遅い」という見方ができると、本人も次の仕事で「また遅いと思われるかもしれない」と評価を意識しやすくなります。周囲の期待や接し方も、その人物像を前提に変わることがあります。

すると本人は、速く見せようとして必要な確認まで削ったり、逆にミスを出さないよう何度も見直したり、途中で質問するだけでも「こんなことを聞いていたらまた遅いと思われる」と迷ったりします。その結果、修正や判断待ちが増えて本当に仕事が長引けば、周囲には「やっぱりこの人は遅い」と見えます。評価が次の仕事の仕方を変え、その結果が元の評価をさらに強めることで、最初は期待のズレだった問題がフィードバック暴走へ変わっていきます。

構造の固定化:言われていない「速さ」を察そうとするほど、仕事の進め方が崩れていく

最初にあるのは、本人がサボっていることとは限りません。上司側には「この仕事ならこのくらいで終わる」「この段階で一度見せる」「ここまで確認すれば十分」といった期待があっても、それが本人には十分共有されないまま仕事が始まります。本人は自分なりの完成条件で進め、期待から外れれば「遅い」と評価されます。その評価を受けた本人は、次こそ期待に合わせようとして、とにかく急ぐ、確認を減らす、途中で出す、考える時間を削るなど、自分なりに進め方を変えます。

しかし、何を変えれば「十分に速い」ことになるのかが共有されないままでは、本人は上司の期待を結果から推測するしかありません。 推測した急ぎ方が外れて手戻りや迷いが増えれば、また仕事に時間がかかります。こうして、期待する速さや進め方が共有されない → 本人なりの基準で進める → 期待から外れて「遅い」と言われる → 本人が言われていない期待を推測して進め方を変える → 手戻りや迷いが増える → また時間がかかる → 「やっぱり遅い」という評価が強くなるという循環が固定されていきます。

4. この構造をほどくには:「もっと早く」を具体的な基準に変える3つの攻略

よくある方法論の間違い

よくある失敗:「仕事が遅い」と言われたので、仕事全体をとにかく速くしようとする

「遅い」と言われれば、確認を減らす、考える時間を短くする、質問せず一気に進めるなど、とにかく速く動こうとするのは自然です。実際に時間を使いすぎている工程があれば、そこは改善した方がいいでしょう。ただ、「仕事が遅い」という言葉だけでは、何を速くすれば仕事全体が早くなるのかは分かりません。 初稿を出すのが遅いのに確認だけ削っても改善しませんし、判断待ちが長いのに手を動かす速度だけ上げても総時間はほとんど変わりません。直す場所を特定しないまま全部を急ぐと、ミスや手戻りが増え、かえって仕事が長引くことがあります。

理不尽構造攻略のヒント

攻略のヒント:「十分に速い」の基準を揃えてから、本当に時間がかかっている場所だけを直す

仕事を早くしたいなら、最初に必要なのは単純なスピードアップではありません。まず「いつまでに、どの状態まで進んでいればよいのか」を相手と合わせ、その基準に対してどの工程で時間を使っているのかを見る必要があります。相手の期待より本当に時間がかかっている部分が分かれば、そこだけを改善できます。逆に、実際の作業時間ではなく期待のズレが原因なら、必要以上に自分を急かす必要もなくなります。 「遅い人」を丸ごと速くするのではなく、速くすべき場所を特定できる状態へ変えることが入口です。

攻略1:仕事を始める前に、「いつ・どこまで進めるか」を自分から置く〖ルール化〗

新しい仕事を受けたときに、「いつまでに終わらせればいいですか」とだけ聞くのではなく、自分から進め方を一つ置きます。たとえば「まず11時に数字を更新した段階で一度共有して、方向が合っていれば13時までに確認まで終えます。この進め方で大丈夫ですか」という形です。期限、途中で見せる時点、完成度を具体化すると、そもそも何をもって『速い』とするのかが見えるようになります。

ここが決まれば、自分の仕事を早くするための目標も変わります。「もっと急ぐ」という曖昧な目標ではなく、「11時までに初稿を出す」「確認はその後に回す」のように、速くしたい場所を具体化できます。相手の期待と違えば開始前に修正できるので、言われていない正解を推測して全部を急ぐのではなく、必要な地点へ最短で進むための基準を先に作れます。

攻略2:「遅い」を、実際に時間がかかっている工程まで分ける〖分解〗

「仕事が遅い」は、そのままでは改善できません。着手が遅い、最初に見せるのが遅い、判断に時間がかかる、確認が長い、完成まで抱える、途中の手戻りが多いなど、同じ「遅い」でも原因はまったく違います。仕事を早くするには、仕事全体ではなく、総時間を伸ばしている工程を見つける必要があります。

たとえば「今回は、最初に見せるタイミングをもっと早くした方がよかったですか。それとも完成までの時間ですか」と確認します。「初稿が遅い」と分かれば、次は完成度を下げてでも初稿を早く出す方法を考えられます。「確認に時間がかかっている」と分かれば、確認項目ややり方を見直せます。『自分は仕事が遅い』ではなく、『この工程に時間がかかっている』まで小さくできれば、初めて具体的なスピード改善ができます。

攻略3:繰り返す仕事は、実際にかかった時間を残して改善を確かめる〖記録〗

定例資料や毎月の集計など、同じ種類の仕事を繰り返すなら、「初稿まで40分、確認込みで70分」のように、主要な工程の時間だけ残します。すべての作業を細かく計測する必要はありません。どこを短くすれば仕事全体が早くなるのか、次回と比較できる程度で十分です。

たとえば前回は「初稿40分、確認30分」だったものが、今回は「初稿30分、確認30分」になれば、初稿を早くする工夫は実際に効いています。逆に、必死に急いでも全体時間が変わっていなければ、別の工程がボトルネックかもしれません。相手に対しても「前回は確認込みで70分だったので、今回はまず40分後に初稿を出します」と説明できます。感覚的な『もっと早く』ではなく、実際に仕事が早くなったかを確かめながら改善できます。

5. まず10分でできること:「○時に○○まで」を一つ決めて共有する

今抱えている仕事を一件だけ選び、次に相手へ見せる時点を一つ決めます。仕事全体の細かなスケジュールを作る必要はありません。今回は、「何時に」「どの状態まで」を見せるかだけで十分です。

たとえば「14時に数字だけ入れた版を一度共有する」「16時までにたたき台を作り、確認はその後にする」のように、時間と状態を一つの文にします。そのうえで、「まず14時にここまで共有する形で進めます。もっと早い方がよければ教えてください」と相手へ伝えます。

10分後に、「できるだけ早く」という曖昧な目標が、「○時に○○まで進める」という測れる目標へ変わっていれば完了です。まず基準を一つ作るだけでも、次から「どこをもっと早くすればいいのか」を判断しやすくなります。

6. まとめ

自分では急いでいるのに「仕事が遅い」と言われると、もっと手を速く動かさなければいけないと思いがちです。しかし実際には、職場が期待する速さや途中提出のタイミングが共有されていない場合もあれば、特定の工程だけに時間がかかっている場合もあります。「仕事が遅い」という評価だけでは、どちらなのか分からないままです。

仕事を早くするには、何でも急ぐのではなく、まず「いつ・どの状態まで進めればよいのか」を合わせ、そのうえで時間を使っている工程を見つけます。実際に遅いところがあればそこを短くし、期待のズレなら不要な急ぎ方をやめる。「自分は仕事が遅い」と丸ごと直そうとするのではなく、「どこを変えれば仕事全体が早くなるのか」まで小さくすることで、速さは具体的に改善できるようになります。

参考文献

Roch, S. G., Woehr, D. J., Mishra, V., & Kieszczynska, U.(2012)“Rater Training Revisited: An Updated Meta-Analytic Review of Frame-of-Reference Training.” Journal of Occupational and Organizational Psychology, 85(2), 370–395.
論文ページ
評価者に共通の評価枠組みを持たせるFrame-of-Reference Trainingと、パフォーマンス評価の正確さとの関係について参照。

DeNisi, A. S., & Murphy, K. R.(2017)“Performance Appraisal and Performance Management: 100 Years of Progress?” Journal of Applied Psychology, 102(3), 421–433.
論文ページ
人事・パフォーマンス評価における評価基準、評価者の認知過程、評価の偏りに関する研究史と知見を参照。

Tversky, A., & Kahneman, D.(1974)“Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases.” Science, 185(4157), 1124–1131.
論文ページ
最初に与えられた数値や基準を起点として、その後の判断が引きずられるアンカリングと調整について参照。

Leung, A., & Sy, T.(2018)“I Am as Incompetent as the Prototypical Group Member: An Investigation of Naturally Occurring Golem Effects in Work Groups.” Frontiers in Psychology, 9, 1581.
論文ページ
職場集団における否定的な期待と、部下の自己効力感・努力・パフォーマンスとの関係について、ゴーレム効果の説明を参照。

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