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なぜ仕事ができないと、「責任感がない」と言われるのか?

仕事でミスや遅れが続くと、「もう少し責任感を持って」と言われることがあります。でも、仕事がうまくできなかったことと、責任感がないことは本当に同じなのでしょうか。一度そう見られるようになると、確認しても、自分で進めても、なぜか悪い評価につながることがあります。しかも、その評価を気にするほど仕事がやりにくくなり、さらに同じことを言われることもあります。この記事では、なぜ仕事上の不調が人物そのものの評価へ変わり、それが抜けにくくなるのかを行動科学から整理します。さらに、よくある挽回策が効きにくい理由と、仕事の進め方そのものから流れを変える方法まで考えていきます。

目次

1. ミスや遅れが続いたら、「責任感が足りない」と言われるようになりました

匿名希望

仕事ができていないことは自分でも分かっています。でも、それがどうして『責任感がない』になるのかが分かりません。

配属されてから、資料を何度か修正されたり、先輩より仕事に時間がかかったり、確認漏れを指摘されたりすることが続きました。最初は「ここを直して」「次は先に確認して」と具体的に言われていたのですが、最近は上司から「もう少し責任感を持って仕事して」と言われます。手を抜いたり、途中で放り出したりしているつもりはありません。
それからは提出前に細かく確認されることが増え、自分でも「また何か言われるかもしれない」と何度も見直すようになりました。分からないところを聞くと「まず自分で考えて」と言われる一方、自分で判断して間違えると「分からないなら確認して」と言われます。前より慎重になったぶん仕事も遅くなり、最近は少し迷っただけでも手が止まります。仕事がうまくできないことと、責任感がないことは、本当に同じなのでしょうか。

2. ミスや遅れが、「責任感がない」という人物評価へ変わる3つのパターン

周囲へ迷惑をかけないよう慎重になる人、自分の担当は自分で仕上げようとする人、次から正しく判断できる基準を探す人では、仕事がうまくいかないときの動き方が違います。それでもミスや遅れという個別の結果が続き、それが仕事の進め方ではなく本人の姿勢として読まれると、三タイプとも最後には「責任感がない人」という同じ人物評価を受けることになります。

このタイプのもやもや

前に確認漏れでやり直しを出してしまって、先輩にも手間をかけたので、それからは迷ったら先に聞くようにしています。でも何度か確認すると、『そこまで全部聞かないとできないの?』『もう少し自分で考えて』と言われました。次はなるべく自分で進めようとしたんですが、今度は勘違いしたまま作ってしまって、『分からないなら早めに聞いて』と言われました。最近は、聞いた方がいいのか自分でやった方がいいのか、その判断から迷います。

ここで起きている構造:取れないレッテル

三タイプでは、仕事がうまくいかなくなるまでの動きが違います。確認を増やす人も、自分で仕上げようとする人も、判断基準を知ろうとする人もいます。ところが一度「責任感がない」という評価がつくと、確認すれば「自分で考えない」、抱えれば「報告が遅い」、理由を聞けば「言い訳が多い」というように、違う行動まで同じ人物評価の材料になりやすくなります。

その評価は次の仕事にも残ります。本人も「また責任感がないと思われるかもしれない」と意識するため、確認するか迷ったり、相談を遅らせたり、間違えないよう必要以上に慎重になったりします。それで仕事がさらに遅れれば、また「やっぱり任せにくい」と見られます。最初の評価が次の仕事の仕方を変え、その結果がまた最初の評価を補強していく。ここでは、この剥がれにくくなった人物評価を「取れないレッテル」と呼びます。

補足:低い業績を「本人側の問題」と見ると、その後の上司の対応にも違いが出ています

Mitchell & Wood(1980)は、部下の低い業績に対して上司がどう反応するかを二つの研究で検討しました。その結果、業績不振の原因を本人側にあると判断した場合、上司はより懲罰的な対応を選びやすかったことが報告されています。また、失敗による結果が深刻な条件では、本人側へ原因を置く判断と懲罰的な反応の両方が強まりました。

この研究は、「責任感がない」という言葉そのものや、日本の職場を調べたものではありません。ただ、仕事がうまくいかなかったという結果が同じでも、その原因を本人側にあると見るかどうかで、その後の上司の対応まで変わりうることは示されています。仕事上の一つの不調が本人の性質の問題として受け取られれば、その評価はその場の感想だけで終わらず、次にどう扱われるかにもつながり得ます。

3. 行動科学で解説:なぜ「仕事ができない」が「責任感がない」に変わり、その評価まで固まるのか?

仕事がうまくできない人を見ると、周囲は「なぜできないのか」を考えます。そのとき、経験不足や仕事量、説明不足、その日の状況などは外からすべて見えるわけではありません。一方、「遅れた」「間違えた」「何度も確認した」という本人の行動は見えます。そのため、仕事上の結果が「この人は仕事への向き合い方に問題がある」という本人側の説明へ変わりやすくなります。

一度「責任感がない」という見方ができると、それは次の出来事を見る基準にもなります。周囲の期待や接し方が変わり、本人もその評価を気にしながら働くようになります。その結果として仕事がさらに不安定になれば、最初の評価を裏づける材料がまた増えます。一度の評価が次の仕事へ入り込み、その仕事の結果がさらに評価を強めることで、レッテルが剥がれにくくなっていきます。

3つの理論で詳しく見る 

コア理論:基本的帰属錯誤 ― 仕事の不調を、状況より本人の性質で説明しやすい|意味誤認

基本的帰属錯誤は、他人の行動を見るとき、その人が置かれていた状況の影響よりも、性格や能力、意欲など本人側の要因を強く見積もりやすい傾向です。本人には「まだ経験が少ない」「途中で仕事が増えた」「指示の前提が分からなかった」といった事情が見えていても、周囲から見えやすいのは、その結果として起きた遅れやミスです。

今回なら、直接確認できるのは「仕事がうまくできていない」という状態です。そこから、「うまくできない」→「ちゃんと取り組んでいない」→「責任感がない」と進むと、仕事の結果に本人の内面という意味が加わります。仕事が遅い理由、ミスした理由、相談が遅れた理由はそれぞれ別に確認できるはずなのに、一つの人物像で説明される。これが今回の中心にある意味誤認です。

サブ理論:ゴーレム効果 ― 低い期待が、次の仕事のパフォーマンスまで下げる|フィードバック暴走

ゴーレム効果は、周囲から向けられる低い期待が、その人の実際のパフォーマンス低下につながる現象を扱う考え方です。「この人にはまだ任せにくい」「また失敗するかもしれない」という見方が強くなると、仕事の任せ方や確認の仕方、本人との接し方まで変わることがあります。

本人もその評価を感じれば、間違えないために確認を増やしたり、逆に質問をためらったり、自分だけで挽回しようとしたりします。そうして実際に判断が遅れたり仕事が止まったりすると、周囲には「やっぱり任せにくい」という新しい材料が増えます。評価によって次の仕事が難しくなり、その結果がまた評価を強くするところで、フィードバック暴走が起きます。

補助理論:確証バイアス ― 一度できた人物像に合う出来事ほど、強い証拠として残る|フィードバック暴走

確証バイアスは、一度ある見方を持つと、それに合う情報へ注意が向きやすく、反対する情報を弱く扱いやすくなる傾向です。「責任感がない」という見方がなければ、一回の質問や遅れをその都度別の出来事として見ることもできます。しかし一度人物評価ができると、「また聞いている」「また遅れた」という出来事が、その評価を裏づける証拠としてつながりやすくなります。

反対に、問題なく終えた仕事は「普通にできた」と処理され、評価を変える材料にならないことがあります。本人が慎重になった結果の確認まで「自分で判断できない証拠」として読まれれば、評価と合う材料だけがさらに増えていきます。こうして一度できたレッテルが更新されにくくなり、フィードバック暴走を長く続かせる材料になります。

構造の固定化:「責任感がない」という評価が、次の仕事の結果まで取り込んでいく

最初にあるのは、仕事が遅れた、ミスをした、確認が多かったといった具体的な出来事です。それが本人の性質で説明されると、「責任感がない」という人物評価になります。一度その見方ができると、周囲の期待や接し方が変わり、本人もその評価を意識して確認しすぎる、相談をためらう、一人で抱えるといった行動を取りやすくなります。

そこでまた仕事が遅れたり判断を誤ったりすると、その結果は「やっぱり責任感がない」という証拠になります。一方、うまくできた仕事は評価を更新するほど強く残らないことがあります。仕事がうまくできない → 本人の性質で説明される → 「責任感がない」という評価がつく → 評価によって次の仕事の条件や本人の動きが変わる → また仕事がうまくいかない → 元の評価が強くなる。 この循環によって、一度ついた人物評価が「取れないレッテル」として固定されていきます。

4. この構造をほどくには:「責任感」を後から裁く仕事の進め方を変える3つの攻略

よくある方法論の間違い

よくある失敗:「責任感がある」と分かってもらうために、次の仕事で挽回する

「責任感がない」と言われれば、次こそミスをしない、もっと早く終わらせる、言われる前に動くなど、仕事ぶりで評価を取り戻そうとするのは自然です。仕事上の問題があるなら、実際に改善することも必要です。ただ、何をできれば「責任を果たした」と言えるのかが決まっていないままでは、結果が悪かったときに再び「責任感がない」という人物評価へ戻れます。評価を覆すために頑張るだけでは、仕事が終わった後に責任感を判定される構造そのものは残ります。

理不尽構造攻略のヒント

攻略のヒント:責任感を後から判定するのではなく、仕事を始める前に「何をすれば責任を果たしたことになるか」を決める

今回変えたいのは、「自分には責任感がある」と認めてもらうことではありません。仕事が終わった後に、結果を見ながら「ちゃんと考えたのか」「もっと早く言えたはずだ」と人物評価まで広げられる余地そのものを小さくします。どこまで自分で判断するのか、どの段階で確認するのか、何が起きたら報告するのかを先に仕事の条件として置けば、次に見るものを「責任感」から実際の行動へ移せます。

攻略1:次の仕事では、「責任を果たす条件」を先に上司と決める〖ルール化〗

新しい仕事を受けたときに、完成条件だけでなく、進め方の途中にも基準を置きます。「ここまでは自分で判断する」「この段階で一度確認する」「予定より半日遅れそうなら報告する」「この条件が出たら自分では決めずに戻す」といった形です。何をすれば責任を持って進めたことになるのかを、問題が起きる前に具体的な行動として決めておきます。

できれば、その条件は上司とのやり取りの中で確認します。「まずここまで進めて、この段階で見てもらう形でいいですか」「この条件になったら一度相談します」と先に共有しておけば、結果が悪かったときにも「責任感がなかった」で終わらず、決めた進め方のどこでズレたのかへ戻れます。仕事ができなかった後に人物を評価する流れへ、仕事を始める前の共通基準を割り込ませることで、「低い評価→仕事がしづらくなる→さらに低く評価される」という循環を途中からではなく入口で止めます。

攻略2:「責任感がない」と言われたら、どの条件が崩れたのかまで分ける〖分解〗

事前に条件を決めても、仕事がいつも予定どおり進むとは限りません。ミスや遅れが起きたときは、「また責任感がなかった」で一括りにせず、期限、途中報告、確認、判断範囲、修正対応など、どの行動が実際に不足していたのかまで分けます。 攻略1で作った基準があることで、人物評価ではなく仕事の中の一点へ戻しやすくなります。

たとえば「もっと責任を持って」と言われたら、「今回変えるべきなのは、遅れそうだと分かった時点での報告ですか」「判断せず確認すべきだったのは、この部分ですか」と具体化します。そこで一つの不足が見つかれば、次に直す対象も一つになります。失敗のたびに人物全体の評価へ戻るのではなく、具体的な仕事の問題だけを次の仕事へ持ち越します。

攻略3:責任を「失敗しないこと」ではなく、「問題が起きた後まで扱うこと」と捉え直す〖再定義〗

事前に基準を決めても、「ミスをした時点で責任を果たせなかった」と考えるままでは、悪い結果が出るたびに再び「責任感がない」という評価へ戻りやすくなります。そこで責任を、失敗を一度も起こさないことではなく、問題が起きたときに報告する、影響を確認する、修正する、必要なら判断を上へ戻すところまで扱うこととして捉え直します。

この見方なら、途中で助けを求めることも、ミスを早く共有することも、責任を放棄した行動ではなくなります。仕事がうまくいかなかったときにも、「失敗した=責任感がない」ではなく、「その後に必要な処理をしたか」を見られます。結果の悪さだけで人物評価が復活する経路を弱め、攻略1で作った仕事上の基準を失敗時にも維持します。

5. まず10分でできること:次の仕事で「どこで報告するか」を一つだけ決める

今抱えている仕事を一件だけ選び、問題が起きたときにどこまで自分で持ち、どの時点で上司へ戻すのかを一つ決めます。仕事全体のルールを作る必要はありません。今回は、攻略1の入口になる一つの条件だけで十分です。

たとえば「予定より半日遅れそうなら報告する」「判断材料が一つ足りなければ確認する」「一度作った時点で方向だけ見てもらう」のように、起きたかどうかを後から確認できる形にします。決めた条件を上司へ共有できる状況なら、「この状態になったら一度相談します」と短く確認しておきます。

10分後に、「責任を持ってやる」ではなく、「○○になったら△△する」という一つの基準ができていれば完了です。次の仕事では、責任感があるかではなく、その行動を実行できたかを見られる状態になります。

6. まとめ

仕事がうまくできないことが「責任感がない」という人物評価へ変わると、その評価は次の仕事にも入り込みます。任せ方や確認のされ方が変わり、本人も評価を気にして判断や相談が難しくなれば、本当に仕事がうまくいかなくなり、その結果がまた「やっぱり責任感がない」という評価を強めます。問題は一度そう言われたことだけではなく、仕事の結果を見てから責任感を判定する流れが、その後も続くことです。

だから、同じ評価の中で「責任感がある人だ」と証明し続ける必要はありません。次の仕事を始める前に責任を果たす条件を具体化し、問題が起きたらどの条件が崩れたのかだけを分け、失敗後の対応まで責任の一部として扱う。「結果が悪い→人格を評価する→次の仕事もその評価で見る」という流れを、「先に仕事の基準を決める→行動を見る→不足した部分だけ次に直す」という流れへ変えることで、取れないレッテルが仕事そのものを悪化させる循環を止めやすくなります。

参考文献

Ross, L.(1977)“The Intuitive Psychologist and His Shortcomings: Distortions in the Attribution Process.” Advances in Experimental Social Psychology, 10, 173–220.
https://doi.org/10.1016/S0065-2601(08)60357-3
他者の行動を、その人が置かれた状況よりも性格や意図など本人側の要因で説明しやすい傾向について、基本的帰属錯誤の理論的背景を参照。

Mitchell, T. R., & Wood, R. E.(1980)“Supervisor’s Responses to Subordinate Poor Performance: A Test of an Attributional Model.” Organizational Behavior and Human Performance, 25(1), 123–138.
https://doi.org/10.1016/0030-5073(80)90029-X
部下の低い業績を本人側の原因へ帰属した場合に、上司がより懲罰的な対応を選びやすかったことなど、低業績に対する上司の原因帰属と対応の関係を参照。

Leung, A., & Sy, T.(2018)“I Am as Incompetent as the Prototypical Group Member: An Investigation of Naturally Occurring Golem Effects in Work Groups.” Frontiers in Psychology, 9, 1581.
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2018.01581
職場集団における否定的な期待と、部下の自己効力感・努力・パフォーマンスとの関係について、ゴーレム効果の説明を参照。

Nickerson, R. S.(1998)“Confirmation Bias: A Ubiquitous Phenomenon in Many Guises.” Review of General Psychology, 2(2), 175–220.
https://doi.org/10.1037/1089-2680.2.2.175
一度形成した見方に合う情報を重視し、反する情報を弱く扱いやすい傾向について、確証バイアスの説明を参照。

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