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なぜ締切から逆算して、必要な時間を見積もれないのか?

締切は分かっているし、作業時間も考えている。それなのに、始めてみると確認や修正が増え、毎回最後に時間が足りなくなる。こうしたズレは、単に「余裕を持つ」だけでは繰り返すことがあります。この記事では、なぜ必要時間を短く見積もってしまうのかを行動科学から整理し、締切から現実的に逆算するための具体的な攻略まで考えます。

目次

1. 締切から逆算して、必要な時間を見積もれない

匿名希望

3時間あれば終わると思ったのに、始めると毎回時間が足りなくなります

月曜日に「この資料、金曜日までにお願い」と頼まれました。資料を作るだけなら3時間くらいだと思ったので、「木曜の午後からやれば間に合う」と考え、それまでは別の仕事を進めていました。締切を忘れていたわけでも、何もせず先延ばししていたわけでもありません。
ところが木曜日に始めると、最新の数字を別部署にもらう必要があり、前回資料との違いも確認しなければなりません。数字が返ってきたのは金曜の朝で、資料を作ったあと上司に見せると修正も入りました。「資料を作る時間」は確かに3時間くらいなのに、完成までにはもっと時間が必要でした。
こういうことが何度もあります。終わった後は「次はもっと早く始めよう」と思うのですが、次の仕事でも「これは半日あればできる」「まだ締切まで3日ある」と考えてしまいます。締切も分かっているし、作業時間も考えているつもりなのに、なぜ必要な時間をうまく逆算できないのでしょうか?

2. 必要時間を短く見積もりやすい3つのパターン

同じように最後に時間が足りなくなっても、最初に見落とすものは少し違います。人とのやり取りを軽く見積もる人もいれば、自分なら短時間でできると思う人も、かなり細かく計算しているのにずれる人もいます。ただ、三タイプとも、「自分が手を動かす時間」は考えていても、仕事が完成するまでに必要な時間全部までは見えていません。

このタイプのもやもや

資料を作るのは自分なので、自分の作業時間は考えています。でも、他部署への確認は「ちょっと数字を聞くだけ」、上司のチェックも「見てもらうだけ」なので、あまり時間として数えていません。何日も前から「早く確認してください」と言うのも急かしている感じがして、必要になってから頼むことが多いです。そこで返事が翌日になったり、修正が入ったりすると、「こんなに待つとは思わなかった」となって、最後だけ時間がなくなります。

ここで起きている構造:見落とした総負担

三タイプとも、仕事に必要な時間をまったく考えていないわけではありません。ただ、人タイプは相手を待つ時間、大物タイプは準備や修正、理屈タイプは予定外の工程を見積もりの外へ置きやすくなっています。ここで混ざりやすいのが、自分が手を動かす「作業時間」と、依頼してから確認・待ち・修正まで含めて完成するまでの「所要時間」です。「資料作成は3時間」という数字だけを見ると、締切の3時間前から始めれば間に合うように見えますが、実際に逆算しなければならないのは、資料が完成するまでの所要時間です。

見積もりから外れていた確認、待ち時間、修正、割り込みは、仕事を始めてから初めて姿を現します。その時点では締切までの余裕が少ないため、見えていなかった時間が最後にまとめて押し寄せます。最初には軽く見えていた仕事が、あとから時間・注意・調整の負担まで含んだ大きな仕事として現れる。これが、「見落とした総負担」です。

補足:人は「現実的な見積もり」でも、実際よりかなり短く予測することがある

Buehler、Griffin、Rossが1994年に行った研究では、卒業論文に取り組んでいた37人の学生に、完成まであと何日かかるかを予測してもらいました。学生が「現実的」と考えた予測は平均33.9日でしたが、実際には平均55.5日かかり、予測した時期までに完成したのは約30%でした。本人なりに現実的に考えていても、完成までの時間を短く見積もることがあると分かります。

もちろん、卒業論文と会社の資料作成は同じ仕事ではありません。ただ、KrugerとEvansが2004年に行った5つの実験では、買い物や文書整形、料理などの仕事を細かな工程へ分けて考えさせると、分けずに考えた場合より所要時間の予測が長くなり、一部の実験では実際の時間とのずれも小さくなりました。仕事を一つの塊として見ると、その中にある工程が見積もりから抜けやすいことを考える材料になります。

3. 行動科学で解説:なぜ締切が分かっていても、逆算がずれるのか

締切から逆算すること自体は、それほど難しい計算ではありません。金曜17時が締切で、完成まで3時間なら、14時から始めれば間に合います。問題は、その前提になっている「完成まで3時間」という数字が、本当に完成までに必要な時間なのかです。

仕事を頼まれた瞬間には、資料を作る、文章を書く、数字をまとめるといった中心作業は思い浮かびます。一方で、情報を探す、相手へ確認する、返事を待つ、見直す、修正する、割り込みから戻るといった時間はまだ具体的に見えません。逆算をしていても、見積もりの中身が足りなければ、開始地点は自然と締切側へ寄ってしまいます。

3つの理論で詳しく見る 

コア理論:計画錯誤 ― 「これくらいで終わる」という未来を楽観的に組み立てる|時間錯覚

計画錯誤とは、仕事や作業の完了までに必要な時間を、実際より短く見積もりやすい傾向です。人は未来の仕事を考えるとき、「ここから始めて、この順番で進めれば終わる」という比較的スムーズな展開を思い描きやすくなります。そのため、途中で確認が止まる、修正が増える、別の仕事が割り込むといった出来事は見積もりの外へ出やすくなります。

しかも、過去にも予定より時間がかかった経験があっても、「前回は急な修正が入ったから」「あのときは忙しかったから」と、その遅れを今回とは別の事情として扱うことがあります。すると今回も「普通に進めば3時間」と考えられます。実際に起こりうる時間ではなく、スムーズに進んだ場合の時間を基準にしてしまうことで、時間の見方がずれる。これが、時間錯覚です。

サブ理論:フォーカシング錯覚 ― 「資料を作る時間」だけが、仕事全体に見えてしまう|バグ:時間錯覚

フォーカシング錯覚とは、特定の要素へ注意が集中すると、それ以外の要素が判断に入りにくくなる現象です。「資料作成にどれくらいかかるか」と考えると、スライドを作る、数字を入力する、文章を書くといった、資料そのものを作っている場面が頭に浮かびやすくなります。

しかし、仕事を完成させるには、その前後にも情報収集、確認依頼、回答待ち、上司のチェック、修正などがあります。目立つ中心作業だけを「この仕事」として見るほど、その周囲にある時間が見積もりから消えていきます。 作業時間は3時間でも、完成までには2日必要ということが起こるのは、この違いを同じ「3時間」として扱ってしまうからです。

補助理論:アンカリング効果 ― 最初に置いた「3時間」が、その後も見積もりの基準になる|バグ:時間錯覚

アンカリング効果とは、最初に示された数字や基準が、その後の判断にも影響を残しやすくなる現象です。仕事を受け取ったときに「これは3時間くらい」と一度見積もると、その数字が基準になります。その後、「数字の確認も必要だった」「上司にも見てもらう必要がある」と分かっても、ゼロから見積もりを作り直すより、3時間へ少しずつ時間を足して考えやすくなります。

すると、「確認で30分くらい増える」「修正でもう1時間」という調整はしても、返事が翌日になる可能性や、確認後にもう一度修正が発生する可能性までは反映されません。最初の小さな見積もりを出発点にし続けることで、必要な時間が増えているのに開始時刻はあまり前へ動かない。 こうして時間錯覚が修正されにくくなります。

構造の固定化:最後に増えた時間を「例外」にすると、次も同じ見積もりになる

この構造では、仕事を頼まれる → 中心作業だけを見て「3時間くらい」と考える → 締切の近くに3時間を確保する → 実際に始めてから確認・待ち・修正が見つかる → 時間が足りなくなる → 急いで対応する、残業する、誰かに急いでもらう → 何とか完成する。 最初に見落としていた負担が、締切前になってまとめて現れます。

仕事が終わったあとも、「実作業は3時間だった」という数字だけを次の見積もりに持ち帰り、待ち時間や確認、修正に使った時間を仕事の一部として戻しません。 すると次の仕事でも、また中心作業だけから必要時間を考えます。見落とした時間を見積もりへ戻さないため、同じ「見落とした総負担」が次の締切でも繰り返されていきます。

4. この構造をほどくには:「作業時間」ではなく「完成までの所要時間」を逆算する

よくある方法論の間違い

よくある失敗:作業時間に「少し余裕」を足す

「いつも3時間でギリギリになるなら、次は4時間取ろう」と考える方法です。多少の余裕は役立ちますが、今回の問題は、3時間という見積もりに余裕が足りないことだけではありません。数字の確認、回答待ち、上司のチェック、修正といった工程そのものが見積もりから抜けています。見えていない工程を残したまま時間だけ増やしても、別の待ち時間や修正が後から現れれば、また同じことが起こります。

理不尽構造攻略のヒント

攻略のヒント:「何時間かかるか」の前に、「完成まで何が起きるか」を出す

逆算するときに先に見るのは、自分が手を動かす時間ではありません。資料なら、数字をもらう、作る、上司に見せる、修正するところまで終わって完成です。「何時間作業するか」ではなく、「完成までに何を通過するか」を先に出す。 そこから必要な時間を考えます。

攻略1【分解】完成から逆向きに、必要な工程を並べる

金曜17時が締切なら、「3時間だから14時開始」と考える前に、完成←修正←上司確認←初稿作成←数字を受け取る←数字を依頼すると、完成から逆向きに工程を出します。

そのうえで、自分が手を動かす時間と、相手を待つ時間を分けます。資料作成は3時間でも、数字を待つのに1日、上司確認に半日かかるなら、仕事全体は3時間ではありません。今まで「3時間」の外にあった工程を、仕事の中へ戻すことが中心です。

攻略2【記録】「作業時間」ではなく、完成までの流れを残す

仕事が終わったら、予想:作業3時間/実際:火曜に依頼→木曜回答→3時間作成→上司確認→1時間修正くらいで残します。

次に似た仕事が来たとき、「前も3時間だった」ではなく、この流れを見ます。待ちや修正を「今回はたまたま」と切り捨てず、次の見積もりへ戻すことで、同じ時間錯覚を繰り返しにくくなります。

攻略3【ルール化】自分だけでは終わらない工程を、先に動かす期限を決める

最終締切だけではなく、金曜17時提出/木曜15時までに初稿を上司へ渡す/水曜までに数字が必要なら火曜午前に他部署へ依頼する、というように、自分から次の工程へ渡す期限を置きます。

特に相手待ちは、自分の作業時間では数分でも、完成までの所要時間では1日以上使うことがあります。自分だけでは終わらない工程ほど、「いつまで待つか」ではなく「いつ動かし始めるか」を先に決めることで、締切直前に待ち時間が残るのを防ぎやすくなります。

5. まず10分でできること:仕事を一つだけ、完成から逆向きに分ける

いま抱えている仕事を一つ選び、最終締切を書きます。そこから逆向きに、完成までに必要な工程を5個以内で並べます。

その中で、自分以外の人が動かないと進まない工程に丸をつけます。まだ依頼していないものがあり、今すぐ動かせるなら一件だけ依頼します。

10分後に、「自分が手を動かす時間」以外に必要な工程が見えていれば完了です。

6. まとめ:「何時間かかるか」より、「完成まで何を通るか」を見る

締切から逆算できないのは、計算が苦手だからとは限りません。自分が手を動かす作業時間だけを「この仕事に必要な時間」と見ていると、確認、待ち、修正といった時間が外へ落ちます。その見えなかった負担が後から現れるため、毎回「思ったより時間がかかった」状態になります。

変えるべきなのは、余裕時間の量より見積もる範囲です。作業時間から考えるのではなく、完成までに通る工程を先に出す。そこまで見えるようになると、締切から逆算する開始地点も現実に近づいていきます。

参考文献

Buehler, R., Griffin, D., & Ross, M. (1994). “Exploring the ‘Planning Fallacy’: Why People Underestimate Their Task Completion Times.” Journal of Personality and Social Psychology, 67(3), 366–381.
https://doi.org/10.1037/0022-3514.67.3.366

Kruger, J., & Evans, M. (2004). “If You Don’t Want to Be Late, Enumerate: Unpacking Reduces the Planning Fallacy.” Journal of Experimental Social Psychology, 40(5), 586–598.
https://doi.org/10.1016/j.jesp.2003.11.001

Schkade, D. A., & Kahneman, D. (1998). “Does Living in California Make People Happy? A Focusing Illusion in Judgments of Life Satisfaction.” Psychological Science, 9(5), 340–346.
https://doi.org/10.1111/1467-9280.00066

Tversky, A., & Kahneman, D. (1974). “Judgment under Uncertainty: Heuristics and Biases.” Science, 185(4157), 1124–1131.
https://doi.org/10.1126/science.185.4157.1124

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