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なぜ上司は「自分で考えろ」と言うのに、勝手に動くと怒るのか?

「自分で考えて」と言われて動けば「勝手にやるな」、確認すれば「それくらい自分で考えて」と言われる。こうしたことが続くと、仕事そのものより、今回は聞くべきなのかを判断することで疲れるようになります。単に報連相が下手だからとも、上司が気分屋だからとも限りません。違う対応をしても同じところで怒られるなら、その間に見えていないものがあります。この記事では、この矛盾がなぜ生まれて繰り返されるのかを整理し、現実に使える抜け方まで考えます。

目次

1. なぜ「自分で考えろ」と言われたのに、勝手に動くと怒られるのか

匿名希望

自分で考えろと怒られたのに、自分で考えて動いても怒られます

上司からよく「細かいことまで聞かずに、自分で優先順位を考えて」と言われます。先日も見積書の修正、会議資料、週報が重なっているところに、取引先から急ぎの確認が入りました。週報はいつも金曜中に出していたので、先方への回答を先に済ませてから作ればいいと思い、後回しにしました。すると夕方、上司から「今日の会議前に週報を見たかったのに、なんで勝手に後回しにしたの?」と言われました。会議で使うとは聞いていなかったので、その場では謝るしかありませんでした。
それなら次から確認しようと思い、数日後に仕事が重なったとき、「こっちを先に進めて大丈夫ですか?」と聞きました。すると今度は、「そこまで全部聞かれても困る。普通に考えて優先順位つけて」と言われました。先輩に聞いてみても、「それは先に課長へ通すかな」「いや、そこまで聞かなくてもいいと思う」と人によって答えが違います。社内に何か決まりがあるのか、その案件だけの事情なのか、自分が単に常識を知らないのかも分かりません。「自分で考えろ」と言われているのに、自分で考えて動くと怒られるのはなぜなのでしょうか。

2. 自分で考えても確認しても、結局は上司の反応を見て動く3つのパターン

上司へ余計な手間をかけたくない人、自分で判断できるところを見せたい人、仕事の判断基準をきちんと知りたい人では、最初に取る行動は違います。それでも、自分で決めれば後から直され、確認すれば「自分で考えて」と返されることが続くと、最後には三タイプとも、自分の判断だけでは進めず上司の反応を確かめてから動くようになります。

このタイプのもやもや

上司はいつも忙しそうなので、「自分で考えて」と言われたのは、細かい確認を減らしてほしいという意味だと思っていました。だから自分でできそうなことは、なるべく聞かずに進めていたんです。でも後から、「その案件は部長にも話が通っているから先に言ってほしかった」と、自分の知らなかった事情が出てくることがあります。次から念のため聞けば、「それくらい自分で決めて」と言われます。上司の負担を増やしたくないだけなのに、聞くのと聞かないの、どちらが迷惑なのか分からなくなります。

ここで起きている構造:どっちでも有罪

人タイプは迷惑をかけないようにし、大物タイプは自主性を示そうとし、理屈タイプは判断基準を探しています。それでも全員が、「聞けば指示待ち、聞かなければ勝手」と評価される場所へ戻ってきます。違う方法を試しても同じところで止まるなら、単純に部下の判断力だけの問題とは言えません。

ここでは、会社の正式ルール、部署で続いてきた運用、案件ごとの事情、管理職に任された裁量など、判断に使われているものの出所が部下から見えにくくなっています。 そのため行動前には正解が分からないのに、行動後には「それは聞くべきだった」「そこは自分で考えるところだった」と判定される。どちらを選んでも後から間違いになり得る状態を、この記事では「どっちでも有罪」と呼びます。

補足:判断基準が曖昧なだけでも、仕事の負担は大きくなる

「自分で考えて」と言われること自体が問題なのではありません。自分に何が求められていて、何を基準に判断し、どこまで自分で決めてよいのかが分かっていれば、裁量があることはむしろ動きやすさにつながります。厄介なのは、判断を求められているのに、その判断に必要な前提が見えない状態です。職場研究では、何をすれば目標を達成できるのか、どう評価されるのかが明確でない状態を「役割曖昧性」として扱っています。

日本の労働者13,811人、延べ41,962件の観測データを使った研究では、役割曖昧性そのものが心理的苦痛と関連しただけでなく、仕事量の多さなど他のストレス要因と重なったとき、その悪影響が強くなることも示されました。つまり、「忙しい」だけでなく、何を優先すればいいのか、何をすれば正しく評価されるのかまで曖昧だと、同じ仕事でも負担が大きくなりやすいということです。今回のような「聞くべきか、自分で決めるべきか分からない」状態も、単なる考えすぎとして片づけにくい問題です。

3. 行動科学で解説:なぜ上司と部下で「普通に考えれば」の中身がズレるのか

この問題は、「理不尽な上司が部下を困らせている」とだけ考えると少し単純すぎます。上司自身も、会社のルールをすべて文章どおりに運用しているわけではありません。正式な規程に加えて、部署で続いてきたやり方、上位者から過去に言われたこと、その案件だけの事情、自分に委ねられている裁量などを組み合わせて判断していることがあります。上司から見えている仕事と、部下から見えている仕事がそもそも同じとは限りません。

そこへ役職差が加わると、直属上司の判断は単なる一意見ではなく、現場では強い基準になります。さらに結果が出た後には、「あの時点でこうすべきだった」が判断前より明白に見えやすい。部下がその前提の違いを指摘しにくければ、何が共有されていなかったのかも表に出ません。こうして、何を根拠に判断すればいいのか分からないほど、直属上司の反応を見るのが安全になる状態ができていきます。

3つの理論で詳しく見る 

コア理論:権威への服従|直属上司の判断が、事実上の正解になる【権威同調】

権威への服従は、権威を持つ相手からの指示が、人の行動へ強く影響し得ることを示す考え方です。Milgramの古典的研究は一般的な職場を再現したものではありませんが、立場を持つ相手からの指示が個人の判断へ大きな影響を与え得ることを示しました。

今回も、最初から部下が判断できなかったわけではありません。自分で考えた結果を何度も上司から修正されれば、「仕事として何が妥当か」だけでなく、「この上司ならどう判断するか」が強い基準になっていきます。会社側の別の判断材料が見えなくなるほど、直属上司の判断へ合わせて自分の判断を弱める。これが、この記事での権威同調です。

サブ理論:後知恵バイアス|結果を知ると「最初から分かったはず」に見える【期待ズレ】

後知恵バイアスとは、結果を知った後になると、その結果が事前にも予測しやすかったように感じやすくなる傾向です。Fischhoffの古典的研究でも、結果についての知識が、その前の不確実な判断の見え方を変えることが示されています。

たとえば、会議で週報が必要になったと分かった後なら、「会議前に出すのが当然だった」と感じやすくなります。でも、部下が優先順位を決めた時点では、その情報を持っていなかったかもしれません。上司側の「このくらい知っているはず」と、部下側の「それは聞いていない」が噛み合わない。この「知っているはず」という前提のズレが、この記事での期待ズレです。

補助理論:組織的沈黙|基準が分からなくても、言わない方が楽になる【安全欠如】

組織的沈黙とは、従業員が問題や懸念を持っていても、それを組織へ伝えなくなる状態です。MorrisonとMillikenは、発言することが賢明ではない、あるいは言っても変わらないという共有認識が、問題についての情報を組織内で出にくくすると論じています。

今回なら、本当は「どこまで自分で判断すればいいのか分からない」という問題があります。でも聞けば「自分で考えて」と返され、判断すれば後から怒られる状態が続けば、そのうち疑問自体を出さなくなる。すると上司からは、部下が何を知らないのかさえ見えません。 情報差が残ったままになることで、「なぜそんなことも分からない」と「そんな話は聞いていない」が繰り返されます。

構造の固定化:直属上司の「普通」が、仕事の正解に見えてくる

会社の正式ルール、部署運用、案件固有の事情、管理職の裁量。上司はそのいくつかを使って判断しますが、部下には全部が見えているとは限りません。その状態で部下が判断し、あとから修正される。結果を知っている側には「これは分かったはず」に見えやすく、部下は「自分の判断が悪かった」と受け取りやすくなります。

それが続くと、部下は判断根拠そのものを探すより、直属上司の反応を読むようになります。一方で「そもそも何を根拠に判断しているんですか」と聞くことも減るため、情報差は埋まりません。根拠が見えない → 上司へ合わせる → 根拠そのものを確認しなくなる → 上司の反応がさらに唯一の基準になる。 権威同調、期待ズレ、安全欠如がつながることで、「どっちでも有罪」が繰り返されます。

4. この構造をほどくには:直属上司の反応だけを「正解」にしない3つの攻略

よくある方法論の間違い

よくある失敗:迷ったら全部、直属上司へ確認する

「分からないなら上司と認識を合わせましょう」は、普通なら正しい方法です。ただ、今回分からないのは、一件一件の答えだけではありません。その判断が会社ルールなのか、部署の運用なのか、案件だけの事情なのか、上司自身に任された裁量なのかも見えていません。そこを分けずに毎回答えだけ聞くと、その案件は解決しても、次の案件ではまた「これは聞くべきか」から始まります。確認を増やすほど、「全部聞かずに自分で考えて」と同じ場所へ戻ることもあります。

理不尽構造攻略のヒント

攻略のヒント:正解ではなく、「その判断はどこから来ているか」を見る

直属上司より上に、必ず一つの正解が存在するとは限りません。正式な規程で決まっている仕事もあれば、部署で運用が決められているもの、案件ごとに管理職へ判断が委ねられているものもあります。だから探すのは、上司より偉い人の答えではなく、今求められている判断の根拠がどこから来ているのかです。

その出所が分かれば、「知らなかった会社ルールなら次から確認する」「部署運用なら共有方法を覚える」「この上司へ委ねられた裁量なら、この案件では上司判断が必要」と対応を変えられます。直属上司のその場の反応だけを、すべての仕事に共通する正解へしないこと。 これが今回の構造を崩す入口です。

攻略1:外部基準|その判断の根拠がどこから来ているかを探す

まず、「自分ならどうするか」を考え続ける前に、その仕事にすでに使える判断材料がないかを確認します。社内ポータル、業務マニュアル、決裁規程、承認フロー、申請システム、過去の正式な部門通知などです。たとえば金額なら決裁基準、顧客対応なら営業ルール、作業変更なら品質や工程の基準など、仕事によって見る場所は違います。

そして、何も見つからなかったからといって「ルールがない」とは限りません。逆に、「どこかに正解が隠れている」と探し続ける必要もありません。正式な基準があるのか、部署で運用しているのか、それともその判断が管理職へ委ねられているのかまで分かれば十分です。上司や先輩へ聞くときも、「今回はどうすればいいですか?」ではなく、「これは何か社内基準がある話ですか? それとも案件ごとの判断ですか?」と聞けば、一件の答えではなく判断根拠の出所を確認できます。

攻略2:分解|会社ルール・部署運用・案件判断を同じものにしない

職場では、この三つが普通に混ざります。「10万円以上は部長決裁」は正式なルールかもしれません。「見積は送る前にチーム内で確認する」は部署の運用かもしれない。「この顧客だけは先に自分へ見せてほしい」は、その案件を担当する上司の判断かもしれません。どれも守る必要はあり得ますが、同じ種類のルールではありません。

後から注意されたときも、「また自分が判断を間違えた」とまとめません。正式ルールを知らなかったのか、部署運用を共有されていなかったのか、その案件固有の情報を持っていなかったのか、管理職が裁量の範囲で別の判断をしたのかを分けます。特に、正式なルールがなく「この範囲は管理職判断」と分かったなら、それも一つの重要な情報です。どこまでが共通ルールで、どこから人によって変わり得るのかが見えるだけでも、すべてを自分の判断力不足にしなくて済みます。

攻略3:記録|食い違いが続くときだけ、事実を残して正式に確認する

正式資料ではAとなっているのに現場ではBを求められる、同じ条件なのに判断が繰り返し変わる、毎回「普通は分かる」と別の基準を後から出される。そこまで続くなら、頭の中だけで整理するのは難しくなります。いつ、何を判断し、何を根拠にし、あとから何を言われたかだけを短く残します。上司への不満や性格評価まで書く必要はありません。

そのうえで必要なら、業務の所管部署や上位の管理者へ基準を確認します。ただし、「上司がおかしいのでどちらが正しいですか」と持ち込むのではなく、「資料ではA、現場ではBという運用ですが、今後は何を判断根拠にすればよいでしょうか」と確認します。そこで「Aが正式」「Bが部署運用」「この範囲は直属管理職の裁量」と整理されれば、それでいい。目的は上司を負かすことではなく、直属上司のその場の反応だけで毎回ゼロから正解が変わる状態を止めることです。

5. まず10分でできること

最近、「これは自分で決めるのか、聞くのか」で迷った仕事を一つだけ選んでください。その場面について、まず自分が何を根拠に判断したのかを一行で書きます。「いつもこの順番だから」「納期が近かったから」「先輩もそうしていたから」くらいで十分です。

次に、その仕事に関係しそうな社内情報を一か所だけ探します。「見積 承認」「納期変更 報告」「週報 締切」など、仕事そのものの言葉で検索します。正式ルールが見つかればそれを使う。見つからなくても、どの部署や役職がその判断をしているのかが分かれば前進です。

それも分からなければ、次に聞く一文だけ作ります。「これは何か決まった基準がある業務ですか? それとも案件ごとに判断するものですか?」。今日の10分で正解まで決める必要はありません。まずは、その判断の根拠がどこから来ているのかを一つ特定することから始めます。

6. まとめ

「自分で考えろ」と言われて動けば「勝手にやるな」、確認すれば「それくらい自分で考えろ」。こうした矛盾は、上司が意図的に部下を困らせている場合だけに起きるものではありません。会社ルール、部署運用、案件固有の情報、管理職の裁量が混ざったまま、その内訳を共有せずに判断だけ求めれば、行動前には分からなかった正解が後から現れます。

だから必要なのは、もっと直属上司の空気を読むことでも、上司より上に必ずある「本当の正解」を探し続けることでもありません。まず、今求められている判断は何を根拠にしているのかを特定し、共通ルールとその場の判断を分けることです。それでも食い違いが続くときだけ、事実を残して正式な確認へ進む。「自分で考える」とは、上司の頭の中を当てることではなく、判断に使える材料を自分で取りにいける状態になることです。

参考文献

Milgram, S. (1963). “Behavioral Study of Obedience.” The Journal of Abnormal and Social Psychology, 67(4), 371–378.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14049516/
権威者からの指示が、個人の判断や行動に与える影響について参照。

Fischhoff, B. (1975). “Hindsight is not equal to foresight: The effect of outcome knowledge on judgment under uncertainty.” Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 1(3), 288–299.
https://doi.org/10.1037/0096-1523.1.3.288
結果を知った後では、事前にもその結果を予測できたはずだと感じやすくなる後知恵バイアスについて参照。

Morrison, E. W., & Milliken, F. J. (2000). “Organizational Silence: A Barrier to Change and Development in a Pluralistic World.” Academy of Management Review, 25(4), 706–725.
https://journals.aom.org/doi/10.5465/AMR.2000.3707697
従業員が問題や懸念を持っていても、それを組織内で表明しなくなる組織的沈黙について参照。

Oshio, T., Inoue, A., & Tsutsumi, A. (2021). “Role ambiguity as an amplifier of the association between job stressors and workers’ psychological ill-being: Evidence from an occupational survey in Japan.” Journal of Occupational Health, 63(1), e12310.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/63/1/63_e12310/_article
日本の労働者を対象に、役割曖昧性と心理的苦痛、仕事上のストレスとの関連を検討した研究として参照。

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